焼津の磯田が釣り自慢を、仲間としていた折、・・
「磯さん、その大井川の・・・」と、話を求めた事があり・・・・後日、・・・3年後のことであったが、・・その、釣り師と出会うことになった。
その事である・・・・。
奇遇とは言え、3年の間、「不思議な釣り」が現実のものと思えず、時折、思い出しては消える・・・が、心引かれる釣りを・・・・
「九平次さん、変な釣り師がいてね・・・」
「良く釣るんだ・・・・」と、・・・
埼玉にいる、菊水忠司がわざわざ電話をくれた。
「遇わせてくれないか?」
「今度連れて行くよ・・・」
菊水の父親が営むおとり屋に、ふらりと現れたそうな・・度々来るようになり、良く釣るその釣り師と知り合いになった。時に、一緒に行くようになり、釣りの異様な事に気が付いて・・
「なんでも、大井川から来た・・らしい・・」
「九平次さんなら知っているのかもしれない・・」
と、言う訳で
「・・電話した・・・」らしい。
菊水忠司は、釣りの大会などで知り合い、電話で語り合う仲であった。
「何時だい?・・・」と言って、・・・菊水忠司も興味を覚えたのだろう・・・・
・・・九平次は世の不思議を思った。
その後、一月もたたず「竿がゆらゆら」揺れる、釣り師と遭うことになった。
花舞芳郎が、好物の「鮎のにぎり鮨」を目の前に、剥いだ皮を炙りサラダにしたものとビールをやって、九平次の話を聴いていたが・・・・
鮨を一つ口に放り込むと・・・決まって・・・
「藁科の鮎は凄いよね・・」と、言う。・・・そうして・・・
話題は何時の間にか、黒俣川の鮎の話となっていった。
蚊取り線香が大きな円を一回りする頃には蜩の声も止み、その森も闇に包まれて静かな黒の世界になった。何処からか山百合の甘い匂いが漂って来た。
九平次は夜の闇が好きだった。何もかも消え、あるのは自分の意識だけで、それも眠りの中で消えていく。闇に包まれ、やがて自らも闇に消えていく・・・すべてが・・・この一瞬だけが自分らしさを取り戻す時に思えるのだった・・・
「明日は明日の事・・・」
・・・安らかな仮死状態。
「今日が済めばそれで・・・」良い、
「生きていく事は、義務でしかないのだから・・・」
九平次は寝床に入ってからも・・ぼんやりと・・黒い影・・のことを考えていたが、やがて・・鼻息を立て、眠りに落ちていった。
つづく